広告
病院薬剤師のAutmです
乗り物酔いの症状、ツライ
乗り物酔いしやすい人にとって、つらい症状を避けるために乗り物酔いになるのはなんとしても避けたいですよね。
そんなときに活躍するのが酔い止めの薬です。
トラベルミンやアネロンなど、市販薬としてもたくさんの薬が売られていますね。
今回は乗り物酔いの概要と乗り物酔いに使う薬の大まかな選び方をご紹介したいと思います。
広告
目次
乗り物酔いとは?
乗り物酔いとは、Wikipediaには「航空機・列車・自動車・船舶・遊園地の遊具など、各種の乗り物が発する揺れなどの加速度によって、体の内耳にある三半規管が刺激されることで起こる身体の諸症状である」と記載されています。
学問的には「動揺病」と呼ばれています。
乗り物酔いはどのくらいの人が経験するものなのでしょうか。
論文にこんなデータがありました。
旅行者の約3分の2は、車内、特に後部座席で乗り物酔いの症状を少なくとも一度は経験したことがある
It would appear that about two thirds of travelers have experienced symptoms of motion sickness at least once in a car, especially when in the back seat
Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.
約3分の2は経験するとのこと。かなり多いですね。
しかし、残りの3分の1は経験しないということなので全く乗り物酔いにならない人もいるようです。
なにか乗り物酔いしやすい特徴などはあるのでしょうか。
同じ論文に次のような記載がありました。
若い人、特に6歳から12歳までの子供や女性は乗り物酔いになりやすいと考えられています
Young people, especially children between the ages of 6 and 12 years, and women are believed to be more susceptible to motion sickness
Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.
この論文によると若者や女性は乗り物酔いになりやすいとのことです。
ちなみに私は男性ですが、乗り物酔いに非常になりやすいです。
……結局はその人によるということになりそうではありますね。
乗り物酔いに使う薬
乗り物酔いには大きく分けて「抗ヒスタミン薬」と「抗コリン薬」の2つが使われます。
乗り物酔いに使う薬としてまず挙げられるのがアレルギーによく使われる抗ヒスタミン薬です。
抗ヒスタミン薬についてはこちらの記事で説明しています。
抗ヒスタミン薬ってそもそも何なの?【効能効果をわかりやすく解説】ジフェンヒドラミン(トラベルミンなど)
アレルギーに使う抗ヒスタミン薬をなぜ乗り物酔いに使うのでしょうか。
それは、ヒスタミンが乗り物酔いの一因となりうると考えられているからです。
生体アミンであるヒスタミンは、船酔いの嘔吐の引き金になると考えられています。動物実験では、船酔いとヒスタミン代謝の間に直接的な相関関係があることが示されています。
The biogenic amine histamine is believed to contribute to the triggering of vomiting in sea sickness. Animal studies have shown a direct correlation between sea sickness and histamine metabolism.
Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.
動物実験ではありますが、船酔いとヒスタミンには相関関係があるとのこと。
そのために、ヒスタミンをブロックする作用のある抗ヒスタミン薬が乗り物酔いの薬として用いられるのですね。
話は少し逸れますが、チーズを避けることは船酔いを予防する手段の一つとして巷で知られています。
なぜでしょうか?
それは、ある種のチーズはヒスタミンを多く含んでおり、それが上述したように乗り物酔いの原因となりうるからです(全部のチーズではないです)。
チーズの他にもマグロ、サラミ、ザワークラウト(キャベツの漬物)、赤ワインなどのヒスタミン含有量の多い食品(微生物によって改変された食品・飲料)を避けることは、乗り物酔いに対する非薬物的介入または予防策の一つであるとされています。
そのため、普段から乗り物酔いしやすいという方は、上に挙げたような食べ物は避けるようにしましょう。
閑話休題。
乗り物酔いには抗ヒスタミン薬のうち第一世代の抗ヒスタミン薬が使われます。
ん?第一世代?
さっき載せてた記事では第一世代よりも第二世代のほうがいいって書いてるじゃない!矛盾してる!
このように思う方もいるかもしれません。
そうです。「花粉症などのアレルギー症状に使うなら」第二世代の抗ヒスタミン薬を選ぶべきです。
しかし、乗り物酔いに対しては第一世代の抗ヒスタミン薬のほうが優れているのです。
何故でしょう?
乗り物酔いは抗ヒスタミン薬の中枢抑制作用を利用しています。
第一世代の抗ヒスタミン薬は眠気が起きやすい。寝ていると乗り物酔いは起きにくい。
つまり、極端なことを言うと第一世代の抗ヒスタミン薬を飲んで眠くなって寝ていると、乗り物酔いせずに目的地に着いている
というわけですね。
逆に言うと眠気の起きにくい、中枢に移行しない第二世代抗ヒスタミン薬は乗り物酔いには効果がありません。
第一世代の抗ヒスタミン薬の乗り物酔いに対する有効性はランダム化比較試験で検証されたが、第二世代は効果がなかった。
Small RCTs have verified the effectiveness of the first‐generation H1 antihistamines against MS, but the second generations were ineffective
CNS Neurosci Ther. 2016 Jan; 22(1): 15–24.
論文でも第一世代の抗ヒスタミン薬の有効性は実証されている反面、第二世代抗ヒスタミン薬は乗り物酔いには効果がないことが示されています。
抗コリン薬は実は第一次世界大戦の前から乗り物酔いの治療薬として用いられているようです[2]。
スコポラミン(ポード内服液など)
スコポラミン(抗コリン薬)は、乗り物酔いを予防するために、末梢性M1およびM5および/または中枢性M1およびM3のmAChR(ムスカリン性コリン作動性受容体)に対してその拮抗効果を発揮する可能性があることが示唆される。
CNS Neurosci Ther. 2016 Jan; 22(1): 15–24.
少し難しいですが、脳に存在している興奮性の受容体を抗コリン薬で抑えることで乗り物酔いに対して効果が出ることが期待されているようです。
抗コリン薬の効果は抗ヒスタミン薬や併用薬よりも優れているわけではありませんが、副作用は比較的少ないと結論づけられています。副作用は抗コリン作用の粘膜乾燥と散瞳、動悸、尿閉などが考えられます[2]。
眠気は抗ヒスタミン薬に比べると少ないです。
抗ヒスタミン薬と抗コリン薬の使い分け
一般的に抗コリン薬は乗り物酔いの予防に、抗ヒスタミン薬は乗り物酔いの症状の治療に用いられます。
また、眠気は抗ヒスタミン薬では多く、抗コリン薬では少ないです。
そのため、乗り物酔いを予防したくて眠気も起きにくいほうが良いという人は抗コリン薬を、乗り物酔いの症状に対処するために使用したい人は抗ヒスタミン薬を選ぶと良いと言えるでしょう。
まとめ
乗り物酔いに使われる薬のうち、抗ヒスタミン薬と抗コリン薬について大まかにそれぞれの特徴と使い分けについて説明しました。
今後、各製品について詳しく解説していく予定なので、興味のある人はぜひ期待していてください。
参考文献
[1]Andreas Koch, et al,. The Neurophysiology and Treatment of Motion Sickness, Dtsch Arztebl Int. 2018 Oct; 115(41): 687–996.
[2]Li‐Li Zhang et al., Motion Sickness: Current Knowledge and Recent Advance, CNS Neurosci Ther. 2016 Jan; 22(1): 15–24.