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薬剤師のPHALです
”風邪”はほとんどの方が1度は経験する感染症です。
乳幼児から老人まで、生涯でほぼ全ての人が風邪をひきます。風邪は昔から現在に至るまで人類にとって最も一般的な感染症といえるでしょう
風邪に対する対策は様々な方法があります。ショウガ、梅干し、ネギなど、各ご家庭で様々な方法があることでしょう。
今回は、その中でもハチミツについて、医学論文のレベルで風邪に対する効果について分かっていることをご紹介します。
- 風邪にハチミツって本当に効果があるの?
- 民間療法ってちゃんとした研究がされているの?
気になる方はぜひ本文を読んでみてください。
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目次
風邪の治療を考える
まずは風邪という病気の原因を改めて確認し、その一般的な治療方法についておさらいします。
風邪の原因について
なぜ人は風邪をひくのでしょう。風邪は感染症です。感染症の原因は大きく分けると以下の3種類です。
ノロウイルスによる腸炎、インフルエンザウイルスによるインフルエンザなど
O157による腸管出血性大腸菌感染症、結核菌による結核など
白癬菌による水虫、カンジダによる膣カンジダなど
一般的に町中で流行するいわゆる”風邪”はほとんどがウイルスによる感染症です。
風邪の症状と一般的な治療について
風邪の症状は発熱や咳、鼻水、のどの痛みなど様々ですが、症状の多くは上気道という呼吸器の上部で起こることから、”風邪”は医学的には“上気道感染”という疾患名をされることがあります。
さて、風邪をひいて病院に行った際の処方薬、あるいはドラッグストアなどでお薬を購入される場合にはどのようなお薬を購入されるでしょう。
考えられる一般的なお薬には次のようなものがあるでしょう。
風邪をひけば、熱が出たり関節が痛んだりします。解熱鎮痛薬はこれらの症状を一時的に改善するのに有効なお薬です。
風邪によりお腹壊すこともあります。このような際には整腸剤を使用すれば、少しでも早く下痢の自然な収まりを期待することができます。注意点として、感染症の場合に下痢を無理やり止めることはかえって逆効果の場合があります。下痢止めの使用は推奨されません。
下痢止めと整腸剤の違いは別の機会に説明します。
続いて、抗生剤です。病院等で非常に多く処方されます。抗生剤は細菌に対して非常に効果的なお薬です。しかし、ほとんどの風邪の原因となるウイルスには全く効果がありません。
抗生剤の投与によって二次的な細菌感染を予防するという理由を聞くこともありますが、これについても医学的な根拠がほとんどありません。
こういった不必要な抗生剤の処方の蔓延はそのお薬に耐性をもった細菌を生み出すため、風邪に対する抗生剤の投与は世界的に推奨されていない治療です。
私の知る医者は、それでも抗生剤を出す理由として、患者が安心するからと仰っていたことがありました。現在の医療では受ける側の権利が尊重されるべきです。この記事を読んだ皆さんはぜひ不必要な処方、疑わしい処方には、「この薬は本当に私に必要ですか?」と聞く勇気を持ってほしいと思います。
ハチミツの風邪に対する効果とは
では、本題のハチミツの効果についてご紹介します。今回はハチミツの効果について医学的に研究された以下の2つの報告をご紹介します。
- 1~5歳の小児を対象とした風邪による咳症状に対するハチミツの効果
- 65歳までの大人も含めた人を対象に、咳とそれ以外の症状も含めた他の治療に対するハチミツの効果
小児の咳症状に対するハチミツの効果
1つ目は少々古いデータになりますが、2009年にイスラエルで行われた試験です。
夜間の咳症状で地域の小児科を受診した1~5歳の小児300例を対象に行われました。
症状は起こってから7日以内の人のみを対象とし、ぜんそくや肺炎、アレルギー性鼻炎などの風邪以外の咳症状がある人や、研究の前から咳止めや風邪薬、既にハチミツを使用していた人は対象外となっています。
300例の小児は3種のハチミツ(ユーカリ,シトラス,シソ科植物)または,プラセボとしてハチミツと色味も風味も似たナツメヤシのシロップの計4つの群に割り振られました。どの群も寝る30分前に10gを初日に1回だけ飲んでいます。
症状改善の評価の方法は、受診当日(試験開始日)と翌日の質問票に基づいています。最終的には270例/300例(89.7%)の方が評価対象となりました。
結果として、ハチミツを飲んだ3つの群でナツメヤシを飲んでいた人達よりも咳の回数、重症度、咳のつらさ、本人の睡眠時間、親の睡眠時間等の全てで最初の日よりも翌日以降に改善していました。また、ハチミツの種類に差はありませんでした。
急性上気道炎の各症状に対するハチミツの効果
2つ目は2019年にオックスフォード大学から報告された論文です。システマティックレビューという方法で急性上気道炎に対するハチミツの効果が報告されています。
システマティックレビューとは一定のルールに則って、これまで報告された論文を収集して評価し、統合的に解析する方法です。
今回は2019年3月18日までに報告された複数の文献を収集しています。収集した文献のルールは、急性上気道炎があり、ハチミツ使用群とその他の治療(咳止めや去痰薬等による治療)群またはプラセボ群(実際には何の効果もない薬)の症状の改善を検討していることです。
抽出された論文は14報で、1~65歳までの1761例の方が症例として含まれています。
解析の結果、ハチミツ群ではその他の治療群に比べて複合的な症状、咳嗽の回数、咳嗽のつらさにおいて明らかな差を持って優れた効果を示しています。少し難しくなってしまうため説明は省略しますが、各種の統計学的な差については下記のとおりです。
- 複合的症状スコア(3報、平均差−3.96、95%CI −5.42~−2.51、I2=0%)
- 、頻回の咳嗽〔8報、標準化平均差(SMD)−0.36、95%CI −0.50~−0.21、I2=0%〕
- 重度の咳嗽(5報、同−0.44、−0.64〜−0.25、I2=20%)
I2は、各論文の結果のばらつきを示す異質性という数値ですが、今回は最大20%と低めであり、論文を統合して評価したことによるばらつきは少ないといえます。
ハチミツ使用の注意点について
ここまでのお話で、ハチミツが風邪の呼吸器症状を改善することが医学的な根拠を持っていることが分かりました。
しかし、風邪を引いた場合にむやみにハチミツを与えるということはお勧めできません。以下にハチミツ使用上の注意点を記載します。
乳児に対するハチミツによるボツリヌス感染
1歳未満の乳児がハチミツを食べた場合は、乳児ボツリヌス症という感染症にかかることがあります。
厚生労働省の記録では。国内では、保健所が食中毒として報告した事例では
1986 年以降 3 例、医師が乳児ボツリヌス症として報告した事例は 1999 年以
降 16 例あるそうです。2017年には国内で死亡例も発生しております。
ボツリヌス菌は土壌中に広く存在している菌です。幼児以降では、摂取しても腸内で増えないため病原菌とはなりませんが、乳児(1歳未満)では腸内でボツリヌス菌が繁殖し感染症となることがあります。
多くの場合は適切な治療により治りますが、まれに重篤化します。
また、ボツリヌス菌は熱にも比較的強く、1歳未満の子の離乳食等にハチミツを使用して加熱調理した場合でも感染リスクは減りません。
ハチミツは1歳未満の子供にはあげてはいけないという点にくれぐれもご注意ください。
虫歯について
もう一つの注意点は、虫歯のリスクです。
ハチミツの中には当然、豊富な糖があります。これは一般に果糖やブドウ糖が主成分であり、ショ糖(砂糖)とは異なるため、虫歯になりにくいとされていますが、やはり過剰な摂取や連日の摂取では虫歯のリスクとなる可能性があります。
そもそもが風邪の症状は短期間であることが多いです。ハチミツを使用するのは咳などの呼吸器症状がつらい時に限定することが推奨されます。
また、その使用量は1つ目の論文にならえば、1日1回、10g程度で良いかもしれません。いずれにしてもあまり大量のハチミツを使用する必要はないといえます。
まとめ
- ハチミツは小児(1~5歳)の咳症状に対して有効という報告がある
- 別の報告として、1~65歳までの風邪症状がある人に対して、咳を含めた様々な症状を咳止めなどの他の治療法よりも改善できたという報告がある
- 1歳未満の小児には絶対にハチミツをあげてはいけない
- 糖分が豊富であり、大量・長期の投与は推奨できない。
- 特に咳がつらい時、少量・短期間での使用が勧められる
参考文献
[1]『Effect of Honey on Nocturnal Cough and Sleep Quality: A Double-blind, Randomized, Placebo-Controlled Study』Pediatrics 2012, 130 (3) 465-471
[2]『Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis』BMJ Evid Based Med 2020/8/18 版