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甲さん、リクシアナ錠(エドキサバン)が80歳以上の高齢者に適応拡大ですね!この間の脳梗塞後のおじいちゃん(患者B)、81歳でした。イグザレルトじゃなくてこちらの方が良かったかもしれないですね。
年齢以外の条件はしっかりと確認しましたか?
…ええっと……。アッ本当だ。80歳以上以外にも条件があるのですね。何々…。…。ふむふむ……。なるほど。
大体わかりました。この条件に該当する人がリクシアナ錠。それ以外の人が他の抗凝固薬でOKですね。
さて、その理解は危ういかもしれません。今回の添付文書の改訂はそう簡単に割り切れません。むしろある条件の患者さんには逆に抗凝固薬の選択が難しくなったという見方もできます。
…?どういうことですか?
さて、2021年8月にとある臨床試験の結果を受けてエドキサバンに80歳以上の一部の患者に適応が追加となりました。乙さんは添付文書を確認のうえ、条件に該当する80歳以上の高齢者はリクシアナ錠15mgを選択すれば良いと理解しましたが、甲さんはこの考え方に注意が必要と指摘しています。今回のテーマは『リクシアナ錠15mg適応追加により、80歳以上の高齢者への抗凝固薬選択はどうなるか』です。
それではまず、現在市場にあるDOACとワルファリンについて復習します。
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目次
現在処方可能であるワルファリンとDOAC
市販の抗凝固薬は以下の通りです。 ・ワーファリン錠(ワルファリンカリウム) ・プラザキサカプセル(ダビガトラン) ・イグザレルト錠(リバーロキサバン) ・エリキュース錠(アピキサバン) ・リクシアナ錠(エドキサバン)
ワーファリンは腎機能による禁忌が無く安価だが、PT時間による調整、用量変更後のPT時間の変動に数日を要する、ビタミンK含有食品回避の必要性がある、有効性・安全性でDOACに劣るエビデンスが蓄積されているといった欠点がある。
出典なし。既知の事実より。
乙さん、DOAC間の使い分けについて、普段はどのように考えられていますか。
うーん。減量基準が様々ですよね。効果はいろいろ報告がありますが、それほど差はないのかと…。
各薬剤の減量基準を確認する事は大変重要です。まずは一緒に復習してみましょう。
ワーファリンとDOACは臨床でのエビデンスが蓄積してきており、現在は抗凝固薬が新たに開始される患者の多くはDOACとなっています。ワーファリンは腎機能障害が強い(CLcr<15mL/min)患者などに限定されてきています。
続いて甲さんの指摘に従って、各DOACの減量基準を確認します。
各DOACの減量基準について
リクシアナ錠15mg/30mg/60mg(エドキサバン) 体重60kg以下:30mg/日 体重60kg超:60mg/日 (CLcr 15-50mL/minまたは一部P糖蛋白阻害薬併用では30mgへ減量) "2021年8月の適応追加は以下の通りです。" 80歳以上で…①と②の両方を満たす場合、1日1回15mgを考慮する。 ① 次の出血性素因を1つ以上有する。 a.頭蓋内、眼内、消化管等重要器官での出血の既往 b.低体重(45kg以下) c.クレアチニンクリアランス15mL/min以上30mL/min未満 d.非ステロイド性消炎鎮痛剤の常用 e.抗血小板剤の使用 ② 本剤の通常用量又は他の経口抗凝固薬が推奨されない
プラザキサCap75mg/110mg(ダビガトラン)
a~dのいずれかに該当する場合は1回110mg、1日2回への減量を考慮すること。c.およびd.ではさらに慎重に投与すること。
a. CLcrが30^50mL/min
b. P糖タンパク阻害剤を併用している患者
c. 70歳以上
d. 消化管出血の既往を有する
プラザキサCap 添付文書
エリキュース錠2.5mg/5mg(アピキサバン)
次の2つ以上に該当する場合は1回2.5mg、1日2回
a. 80歳以上
b. 体重60kg以下
c. SCr 1.5mg/dL以上
エリキュース錠 添付文書
イグザレルト錠10mg/15mg(リバーロキサバン)
以下の場合は10mgを1日1回投与
a. CLcr 30-49mL/min
b. CLcr 15-29mL/min (投与の適否を慎重に検討)
イグザレルト錠 添付文書
プラザキサは拮抗薬があるのと2017年のRE-CIRCUIT試験により、カテーテルアブレーションの予定がある方に良く使用されると聞きました。DOAC唯一の直接トロンビン阻害作用です。
イグザレルトは小児用の内用液が発売されたのと、顆粒もあり剤型が豊富です。1日1回という利点もあります。減量の基準に年齢等は考慮されていないのが気になります。
私は1日1回のリクシアナ30mg or 60mgと、80歳以上の高齢者ではエリキュースを良く見かける気がします。
抗凝固薬はその内服の目的からアドヒアランスが非常に重要であるため、用法が1日1回であることは利点でしょう。しかし、リバーロキサバンに対するROCKET-AFという試験では、組み入れられた対象患者の年齢が65-78歳であり、80歳以上の高齢者という年齢は考慮されていません。
DOAC間の明らかな有効性/安全性の差は結論付け難い状況ですが、筆者の周囲の環境では、エリキュースの減量基準に該当する方にはエリキュース2.5mg/回 1日2回。それ以外の方にはリクシアナ30mg or 60mgということが多いです。
乙さん、そろそろ本題です。これまでDOACではエリキュース®(アピキサバン)が唯一、年齢を考慮した減量基準が設定されていましたが、今回のリクシアナ®15mg(エドキサバン)の適応追加はどうでしょう?
80歳以上の患者にはアピキサバンかエドキサバンか?
なるほど、80歳以上という年齢の基準がありますね。でも、先ほど確認したように減量基準は他にもありましたよ?患者背景を確認すれば、どちらかの薬剤選択が可能では?
では、冒頭の患者Bさんはどうでしょう。
ええっと…。81歳、SCr 1.6mg/dL(CLcr 46mL/min)。
併用薬は…NSAIDが1つですね。その他は該当しないのでこの場合は、
あれ?エリキュース2.5mg/回とリクシアナ15mgの両方の条件に該当します。
乙さんが気づいたように今回のリクシアナ錠15mgへの適応追加により、80歳以上を減量基準にもつDOACはリクシアナ錠とエリキュース錠の2種類となりました。この場合、どちらを選択肢とすべきでしょう。
アピキサバンの減量基準の根拠
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制において、アピキサバン投与で単独のリスク因子による投与量の調整の必要性は確認されていない。 しかし、いくつかのリスク因子(特に高齢、低体重、腎機能障害)のいずれかが重複した場合、単独の場合と比較して本質的に出血リスクが高く、本剤の薬物動態への影響が増大することが予想される。
NVAF 患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(ARISTOTLE 試験)では、80 歳以上、体重 60kg 以下、血清クレアチニン 1.5mg/dL 以上のうち 2つ以上を満たす患者に対しては、無作為化割付時に本剤の用量を減量し、試験期間をとおして同用量を継続した。
その結果、2.5mgBID の有効性は、5mgBID と比較して大きな違いはみられず、対照薬と比較して優れた有効性及び安全性が示された。
エリキュース錠 IF
さらに、ARISTOTLE試験の日本人部分集団における有効性主要評価項目及び安全性に関する評価項目の結果は、試験全体の結果と一貫した傾向が認められた。
エリキュース錠 IF
ARISTOTLE試験における対照群はワルファリン(PT-INR 2.0-3.0)ですね。条件を満たす場合、減量群でもしっかりと有効性が認められています。
エドキサバンの適応追加の背景はどうでしょう。
エドキサバンの適応拡大となった根拠
根拠論文のPICOはこちら: P:80歳以上の非弁膜症性心房細動既往、CHADS2≧2点、標準用量での経口抗凝固薬使用が不適切とされた(CCrが低い, 出血/消化管出血の既往,≦45kg, NSAIDs使用, 抗血小板薬使用)患者への I :エドキサバン 15mg 1日1回の投与は C︓プラセボの投与に対して O︓脳梗塞/全身性塞栓症の発症を有意に抑制。大出血に有意な差はなかった。
有効性について→脳卒中または全身性塞栓症を有意に抑制:681例中
エドキサバン群15例(2.3%/年) vs プラセボ群44例(6.7%/年)
【ハザード比(HR)0.34、95%CI 0.19〜0.61、P<0.001】
N Eng J Med. 2020 Oct 29;383(18):1735-1745.
安全性について→大出血に差はなかった:681例中
エドキサバン群20例(3.3%/年)vs プラセボ群11例(1.8%/年)
【HR 1.87、0.90~3.89、 P=0.09】
N Eng J Med. 2020 Oct 29;383(18):1735-1745.
対照はプラセボですが、効果は認められていますね。出血はエドキサバン群で多いですが、有意な差はないようです。
そうですね。ただ、気になる点はいくつかあります。もう少し内容を確認してみましょう。
エドキサバンの適応拡大となった根拠をよく見ると…
① 解析されている症例数 ② 対象は心房細動の日本人患者 ③ 全死亡に対しては両者とも同程度 ④ 消化管出血はエドキサバン群が有意に多い ⑤ サブフループ解析ではNSAIDs併用群には有意な差がない
① 2016年8月~19年11月に登録された984例の内、解析されたのは681例で、303例と高い割合で中止されています。リスクの高い患者を前提にしている影響ですが、これは取り消し158例、死亡135例、その他10例であり、両群で同等だったとされています。
②について、両群の全死亡に有意差はありませんでした(15mg群 66例:9.9%/年vsプラセボ群 69例:10.2%/年 → HR 0.97、95%CI 0.69~1.36)。死因は脳卒中や全身性塞栓症ではなく、うっ血性心不全、心原性ショック、感染症とのことです。
③について、大出血は有意差はありませんでしたが、より詳細に確認すると頭蓋内出血については差が無く(15mg群 2例:0.3%/年 vs プラセボ群 4例:0.6%/年)、消化管出血は明らかに15mg群がプラセボ群より多くなっています(14例:2.3%/年 vs 5例:0.8%/年 → HR 2.85、95%CI 1.03〜7.88)。また、大出血以外の出血もリクシアナ15mg群で多くなっています。
⑤はサブグループ解析の結果、80歳以上かつNSAIDs併用の条件ではリクシアナ15mgのみでは効果が弱い可能性が捨てきれません。ただし通常サブグループ解析の結果は『有意ではない=この群では差が無い』ではありません。単純に検出力不測などの可能性があるため、解釈には注意が必要です。
結論
結局、あのおじいちゃん。エリキュースとリクシアナどちらが良かったのでしょう。NSAIDsの併用のみの条件であれば従来通りエリキュースでも良いのかもしれませんね。
何とも言えないですね。実際にはリクシアナ15mgへの今回の適応追加は80歳以上の方への選択肢の一つとして増えましたが、今後も患者個別に検討する必要があるでしょう。
他に抗凝固薬の出血リスクを評価するものがあればよいのに。
例えばHAS-BLEDスコアというものがありますよね。HAS-BLEDではsBP≧160なども出血のリスクとされています。また、リクシアナ15mgの複数の減量基準に該当する場合はリスクは大きいと考えて良いかもしれません。
以上、今回は『80歳以上の高齢者への抗凝固薬選択はリクシアナ15mgの適応追加でどうなるか』についてでした。リクシアナ15mgの適応条件を改めて見直すと、『本剤の通常用量又は他の経口抗凝固薬が推奨されない』という文言があり、この点が臨床判断の上で最重要になると考えられます。
今後は医師だけではなく薬剤師の視点としても、患者個別の背景から抗凝固薬が適切に選択されているかを確認することが大切になると予想されます。
関連:HAS-BLED スコア(上限9点)
・高血圧(収縮期血圧 160mmHg超)…1点
・腎機能異常(慢性透析や腎移植、血清クレアチニン2.26mg/dL)…1点
・肝機能異常(肝硬変などの慢性肝疾患、ビリルビン値:正常上限2倍超、
AST/ALT/ALP:正常上限3倍超)…1点
・脳卒中…1点
・過去の出血歴または出血傾向…1点
・不安定なPT-INR…1点
・年齢(>65歳)
・NSAIDsや抗血小板薬…1点
・アルコール依存…1点
Camm J et al:Eur Heart J 31(19):2369-2429, 2010
インフォグラフィック
参考文献
- 各種薬剤 添付文書、IF
- 脳卒中診療ガイドライン2021
- N Eng J Med. 2020 Oct 29;383(18):1735-1745.
- Camm J et al:Eur Heart J 31(19):2369-2429, 2010
とても分かりやすい記事ありがとうございます
インフォグラフィック分かりやすくて涙
今回の適応追加がいまいちピンと来ていなかったのですが、80歳以上のNVAF患者に対するDOACのエビデンスが増えたということでしっくりきました
該当患者は少なくないため、医師への情報提供に役立てていきたいと思います
病院勤務の薬剤師 さん
コメントありがとうございます。当該記事が少しでもお役に立てたのであれば、執筆者としては喜ばしい限りです。
2021/9時点で適応追加後1カ月程度ですが脳外科医と協議する場面も多く、臨床的にとても重要な添付文書の改訂かと思っています。迷う場面も増えましたが、少しでも安全でより効果の高い薬剤選択ができるよう選択肢が増えたことは良いことですよね。
アウトカムを考えると時間はかかりそうですが、今後の質の高い臨床試験に期待です!