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甲さん。ちょっと見てほしいものが
どうしましたか?
抗精神病薬の換算を考えてとある書籍からこの表に行きついたのですが、少し納得いかない点があって。
これは…。なるほど。
今回は筆者が文献を調べる中であった上記の表について、少し考えてみたいと思います。抗精神病薬の換算については定型・非定型ともに力価換算は良く知られているのですが、上記の表の場合は少し解釈に注意が必要に思われます。
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目次
非定型抗精神病薬の力価換算と薬理的プロフィール
早速ですが、この表のどこに違和感を感じますか?
ええっと…。ちょっと患者のAさんを例に説明しますね。
① Aさんはせん妄に対してリスパダール1mgを内服中です。 ② 過鎮静(H1の作用を考慮)のため、ロナセンへ変更することとなりました。 ③ 以下の表に従い、ロナセン4mgにしようと思います。
力価として等価なはずなのですが、D2受容体に対してリスパダール1mg(+++)よりロナセン4mg(++++)で矛盾してしまって。
感覚的にも合わないでしょうか?
D2受容体遮断作用からの錐体外路障害はやっぱりリスパダール1mgの方が頻度として起こる印象はあります…。
表の根拠は?
この表…、よく見るようで、実はあまり見かけない形になっていますね。
…?
では、書籍には参考文献がどのような形で書かれていますか?
ええっと、あれ?1つでは無く、いくつかありますね。
★抗精神病薬の等価換算表 −稲垣&稲田(2017)版−
リスペリドン 1mg、ペロスピロン8mg、クエチアピン66mg、
オランザピン2.5mg、アリピプラゾール4mg etc
日本精神科評価尺度研究会
受容体プロファイルの文献は薬剤毎に複数あり、各薬剤と受容体への結合親和性をKi値で示した表となる。複数の文献の内容を統合して『+』等の記号でこれを表現しているものも多くある。
冒頭の表は、いくつかの文献を組み合わせた受容体プロファイルの表に、さらに抗精神病薬の等価換算尿を組み合わせていると思われます。
比較している条件は各々違いそうですね。ちょっと日本精神科評価尺度研究会のHPを見ると、以下のような注意事項がありました。
・等価換算表はエキスパートが作成した従来の換算表におけるコンセンサスと二重盲検比較試験における治療成績を根拠とする。
・原則、抗精神病作用を評価しており、鎮静作用や抗コリン系副作用等は評価の対象としていない
・各薬剤の等価用量はあくまで目安であり、機械的に薬物投与量の決定を行ってはならない。
日本精神科評価尺度研究会より一部抜粋して編集
受容体プロファイルの問題点は?
力価の表では抗精神病作用以外評価としていないことが分かりました。受容体プロファイルの表とは切り離して評価したほうが良さそうですね。
受容体プロファイルの表も調べていくと複数の研究が根拠になっているようですね。薬剤毎の特徴として参考にはなりますが、例えば薬剤間の力価換算と各受容体の副作用を同時に評価して使用することには限界があるかもしれません。
薬剤と受容体との結合親和性は非臨床試験ですよね?
どうかされました?
非臨床試験であれば薬剤の臨床用量が考慮されていないかもしれません。やはり、薬剤間の比較には向いていなそうですね。
そうですね。さらに臨床では薬物毎の相互作用や薬物動態学的な差を考慮する必要もあるでしょう。
結論
精神系の薬剤の特徴を調べていると、度々見かける『力価換算表』と『受容体プロファイル』ですが、たまたま筆者がそれらを統合して1つの表として紹介している書籍を発見しました。
この表は力価が同じであれば、各受容体の『+』値を横並びに比較できるように見えてしまいますが、そのような使い方は『力価換算表』と『受容体プロファイル』それぞれに想定されていないように思われます。
最後に、Aさんの症例を再確認して、表の使い方をもう一度確認してみます。
① Aさんはせん妄に対してリスパダール1mgを内服中です。 ② 過鎮静のため、ロナセンへ変更することとなりました。 ③ 以下の表に従い、ロナセン4mgにしようと思います。
〇リスパダールのD2作用に対してロナセンの力価換算を行う。
〇リスパダールの臨床用量での副作用の特徴とロナセンの臨床用量での副作用の特徴を把握する。
×リスパダール1mgとロナセン4mgが等力価とすれば、受容体への親和性(この表でいう『+』の数)を横並びに比較してはいけない。⇒そもそもリスパダール1mgとロナセン4mgがD2作用にて等力価とするなら、受容体プロファイルにおけるD2の『+』の数がリスパダールが『+++』でロナセンが『++++』となっており矛盾する。
- 日本精神科評価尺度研究会
- 臨床精神薬理,11(6) 1205-1217, 2008